不妊治療の衝撃的な新事実・ドナー卵子に伝わる母の記憶
不妊症にもいくつかの段階があり、完全に自己卵子では妊娠を望めないレベルになると、解決する治療法はドナーによる卵子提供しかありません。
しかし、卵子の提供を受けるということは、生まれてくる子どもの形質は半分他人の物であり、お腹を痛めて産んだ「母」が子どもに愛情を抱けない、という悲劇が起こる可能性を孕んでいました。
生まれてくる子どもの遺伝子は、精子による父親と、卵子を提供してくれたドナーのものが欠け合わさっている。
産んだ「母」は遺伝子上「他人」であると考えられてきたのです。
その「常識」が打ち破られる研究報告が今、世界で注目を浴びています。
受精卵を育む「母」の情報が混ざる!?
遺伝子情報を司るタンパク質は、外部から供給された場合栄養素として分解され、生着はしません。
母体のお腹の中で、受精卵は「個」として育ちます。
それなのに、「卵子提供によって生まれる子どもに、胎盤の持ち主である産みの母の情報が書き加えられる」と言うのです。
事実なのでしょうか?
そうであるなら、なぜそのようなことが起こるのでしょうか。
何故遺伝子情報の混在が判明したのか
20人の女性を対象とした研究によって、子宮内の羊水が母体の遺伝子情報を含んでいること、そして、胎児が羊水からDNAを吸収していることがわかったのです。
研究はスペインで最先端と言われる「IVI Valencia」で行われ、これを裏付けとして医学誌「Development」に論文が発表されました。
羊水を通じて胎児への遺伝子の転移が行われるため、たとえ他人から提供された卵子であっても生まれてきた子どもは「産みの母」の遺伝子情報を有しているのです。
この発表は、これまでのドナー卵子による出産に対する考え方を完全に覆してしまう可能性を秘めています。
なぜなら、卵巣などの臓器に問題があって自己卵子による妊娠が絶望視される女性であっても、自分の遺伝子をわが子に伝えられるとわかったのですから。
ドナー卵子による妊娠・出産には倫理的に問題があるのではないかと言われ続けてきました。
親の形質を1人分しか受け継がない、半分他人の子どもを心から受け入れられるのか。自分の子どもが欲しいと望みながら、自己卵子でないために将来に及ぶ苦しみを、親、子、双方に負わせることになるのではないか。
羊水によって遺伝子が受け継がれるという事実は、不妊治療の最終手段を前にして混迷の中に陥ってしまった夫婦に「安心」を与えるに違いない。研究者はそのように今後への期待を表明しているそうです。
着想のきっかけとなったもの
この研究に着手した時、英国、サウサンプトン大学のマクロン教授はすでに「産みの親から子への遺伝子継承が行われているのではないか」という説を提唱していました。
ドナー卵子による妊娠、出産であっても、生まれてきた子どもが不思議と母親に似るということがあったからです。
確かにマクロン教授らの研究結果はこれからの不妊治療のあり方に影響をもたらすでしょう。
しかし、それでもなお乗り越えるべき倫理の壁が残っていますし、また、年齢による不妊治療の限界もどうしようもありません。少なくとも現時点では。
世界的な不妊問題を根本的に解決しようと願うのであれば、こうした先鋭的な研究や技術刷新だけでは足りません。
不妊の要因は身体的な問題だけではないのです。個人個人の知識不足もあるでしょう。
化学物質や、自然環境の変化、社会生活の影響やストレスも少なからず人の生命活動を左右していると考えられます。
つまり、「人」の生活圏を構成するあらゆるものが不妊傾向を助長しているのです。
男女を問わず、人間の肉体と健康にまつわる正しい知識を獲得すること。
そして、そういった教育が「当たり前の物である社会」を作ること。
これらが今、何よりも必要なのではないでしょうか。
研究者たちは不可能を可能にするべく、日夜研究にいそしんでいます。
しかし、治療を受ける立場の女性や男性もまた、自らをケアし、本来の機能を維持、回復するように努力しなければならないのだということを認識していただきたいと思います。
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ライタープロフィール
円谷ミナミ
基本的に斜めの姿勢で世の中を見つめるフリーライター。
性的思考はボーダーレス。ただし多少女性に甘い。
自分のキュアリは?(女性としての内面磨き)(沈思黙考・無言実行)
”秘すれば華”を人生を通して実現する方法を模索している。
乙女の窓辺~女性にまつわる、うわさの検証~の四コマ連載中